地域から日本を変える「環境首都創造」セミナー(共同研修)2016

投稿日 2017年4月7日

環境 NGO と地方自治体との「対話」として実施された「環境首都コンテスト」は、今日、環境 NGO・地方自治体・専門家による「環境首都創造ネットワーク」に発展しています。
同ネットワーク主催の共同研修が2016年11月16日、キャンパスプラザ京都で開かれました。その概要をご報告します。

再生可能エネルギーの地域経済効果を評価
地域で化石エネルギーを使えば、対価としてお金が地域の外へ出ていくことになります。これに対して、自然エネルギーは貨幣の流出を止め、お金を地域で循環させることにつながります。立命館大学経営学部ラウパッハ・スミヤ ヨーク教授は、自然エネルギーが地域にもたらす経済効果を産業連鎖(Value Chain Analysis)を用いた分析方法で評価しました。
ケース1 鳥取県北栄町
FIT誕生前の2005年に風力発電所9基1,500kWを設置。投資金額28億円(補助金7.9億円含む)、運転維持費24億円に対して、20年間の電気代売上げ予想74億円、地域創出付加価値は25億円と算出されました。1年当たり1億2,500万円の付加価値は、住民が1年に支払う電気代の3分の1に相当します。
ケース2 長野県
2034年までの経済効果を2000〜2015年の導入実績約1GW(93%太陽光、4%小水力、3%木質バイオマス)。算出した投資金額は約3,600億円、補助金51億円、運転維持費約1,500億円、電気代売上げ予想は約6,300億円。
約2,200億円の地域付加価値が創出され、運転維持のため460人の安定した雇用が生まれます。約51億円の補助金が返済されるばかりか、約740億円の地方税が納められ、地元企業には約550億円の利益が生まれることになります。
質疑の中では、ドイツの電力公社ははじめから送電網を所有しているなど、日本の自治体とは事情が違うことの説明もありました。

トランスフォーメーションの時が来た
国立環境研究所地球環境研究センターの江守正多気候変動リスク評価研究室長は、気温上昇のグラフ、気温変化のシミュレーション(もし対策をしなければ、2030年には1.5°C、2050年には2.0°Cを超える)、気候変動のリスク評価(コストだけを考えれば2.5°C上昇を目指すのが少なくて済むが、ティッピング(ある温度を超えると地球規模で急激な異変)を起こしてしまう)等々をまず説明。
パリ協定の長期目標「平均気温上昇を産業革命以前に比べて2°Cより十分低く保つとともに1.5°Cに抑える努力を追求する」を達成するには、何を守るべきかの価値判断が必要になるとして、気候変動は途上国や弱い立場、将来世代への人権問題」とする気候正義がパリ協定採択を後押ししたことを紹介しました。
「『脱炭素革命』には政治性がある。化石産業、従来型電力産業にとっては脅威。原子力を巡る価値対立もある。これらの乗り越えを含むトランスフォーメーションが必要」(江守)。
トランスフォーメーションは、属性を変えてしまう変化のプロセス、世界観の変化を伴うものです。例えば、産業革命、奴隷制の廃止、日本では「たばこの分煙」のように、それまでの常識をがらりと変えてしまいます(30年前はどこでもたばこが吸えたのが、今では考えられない)。
ここ2、3年、世界のCO2排出量は増えていません。世界規模で経済が成長しているにもかかわらずCO2排出量が減ったのは初めてです。再生可能エネルギーの爆発的な普及、中国の石炭使用の減少がその要因と考えられます。
「時代は今、転換期に来ている。今世紀中の脱炭素 社会の実現も夢ではない」と、江守氏は講座を締めくくりました。

公害問題から気候変動問題を再考
環境文明21の加藤三郎共同代表は、元厚生省公害課〜環境庁職員だった経験から、短時間で克服できた公害問題と長い時間がかかっても解決しない、むしろ温室効果ガスの排出量が増えている気候変動(地球温暖化)問題について、次のように評しました。
「出発点で健康被害が課題であるととらえられなかったため、熱中症で死ぬ人が多発し、豪雨災害・洪水で 命を落としている人もいるにもかかわらず、『2°C上昇』の恐ろしさが多くの人には響いてこない。より健康被害に焦点をあてて、気候変動問題の理解を進める必要がある」。
今日の環境政策の課題についてはグリーン連合の『グリーン・ウォッチ(市民版環境白書)』から次の5点を挙げました。
1:短期的経済が最優先
2:歪んだ環境政策形成プロセス
3:予防原則が守られていない
4:将来ビジョンからバックキャストした取組がなされていない
5:市民参加が形式的で実効性がない。
「これらをクリアすれば、格段に取組が進むのではないかと考えている」と締めくくりました。

世界を救う答えは日本の田舎にある
東近江市市民環境部森と水政策課の山口美知子さんは、日本には長年自然と共生してきた歴史・文化があり、日本の田舎に世界を救うヒントが書き物で残っており、発信できる可能性があることに世界が注目し始めていることから話を始めました。
東近江市は旧八日市市を中心に1市6町が合併して誕 生。三重県との境に鈴鹿山脈があり、ここを水源とし た愛知(えち)川流域が一体となり、地域環境の保全 に取り組めるようになった地域です。
流域は広大な平野にあり、田んぼをつくるためダムがつくられたが、元々は畑作を生業とし、縄文時代から愛知川の水草を肥料としていたことがわかっています。かつて、愛知川の鮎は東京や京都、大阪の料亭がこぞって購入していました。鮎釣りにくる観光客をもてなすところもありましたが、鮎釣りのポイントともども現在はダムに沈んでいる。
中世は、惣掟(そうおきて)による、地域のことは地域で決める自治の仕組みがありました。各惣村ごとに商人がいて、周辺惣村の商人と協力して四日市と交易をしていた近江商人の発祥の地。地域にお金が循環する、地域が稼ぐ仕組みが「三方よし」で地域の発展に貢献する精神となりました。

安心安全に暮らすための環境基本計画づくり
東近江市では2010年から「ひがしおうみ環境円卓会議」が始まりました。安全・安心に暮らすための2030年の社会像を考えてもらい、そこから滋賀県琵琶湖環境科学研究センターの協力でCO2の削減量を計算して検討していきました。地震があっても暖がとれる、送電線が切れても最低限のエネルギーが必要、足が悪くなっても生活できる、歩いて暮らせるまち等、田舎で安心安全に暮らそうと思うと低炭素を目指すことになります。
第2次環境基本計画(平成29年3月改訂予定)検討案でも取組の視点は、日本にもともとあった知恵を現代版にアレンジするだけ。東近江市は歴史的な資料が多く残っているので、それが可能となっています。地域資源の活用、地域資源の見直し・保全・活用、地域資源をつなぐ仕組みづくりを基本方針として、地域の人とチャレンジしていく計画を検討しています。市長も「環境におさまらない計画を」と言っていることから、様々な部署で協力していく必要があるものとなります。

すでにある取り組みも取り込む
菜の花プロジェクトは食とエネルギーの自立を目指し、東近江市から全国に広がるプロジェクト。
あいとうふくしモールは、「ずっと地域に住み続けるには」がテーマ。薪生産・市民共同発電所、農家レストラン・配食福祉サービス提供、24時間対応の高齢者福祉施設運営と高齢者の生きがいづくり、障害・生活困窮者雇用を行っています。
薪プロジェクトは、ナラ枯れ対策として木を商品として流通させようと、薪として販売することになったもの。市内の平均引きこもり年数が20年ですが薪割りをきっかけに社会復帰している人もいます。薪ストーブ、釜に薪を使うピザ屋などの需要があります。
Kikitoプロジェクトは、木材として販売できない半端な木を紙として販売するもの。「母なるびわ湖を支えているのは父なる森」がスローガンです。
東近江市エコツーリズム協議会は、経済団体、企業も参加できるよう、つないでいく仕組み。地域の歴史をふり返り、たとえば高齢者は川遊びを子どもたちに教え、母親は安心して子どもを川に連れて行ける、みんなが楽しむプログラムになっています。
「ひがしおうみ環境円卓会議」は環境基本計画について定期的に活動を確認する場となります。「(人と、自然と)つながりが増加したか」「時間は増えたか」「地域でみんな薪を割り出したか(取り組みが地域に広がり始めたか)」「菜の花などのプロジェクトが広がればどのような効果が生まれるか」など生活実感に即した評価は市民の関心を得ることができます。

地域に投資する仕組みづくり
地域の金融機関と協力して、寄付を集めて、地域のために使われるお金の流れを作る仕組みとして「東近江三方よし基金」をつくりました。具体的には一口3,000円×1,000人で、少ない寄付金でもたくさんの方に参加してもらうことに意義があると円卓会議で議論になりました。基金ができたら、地域材を活かした商品開発、空き家を活用した地域の拠点づくり、地域貢献型発電事業、森を活かした次世代育成と生物多様性の保全などに取り組む予定です。